残酷な神




どうしてこのようなことになってしまったのか。
どこで歯車が狂ってしまったのか。

愛してきた祖国の冷たい地下牢の中、
私はただその運命を嘆くことしか出来なかった。





普通の人なら忌み嫌うといわれる闇魔法。
気がついたら私はその力の虜になっていた。

物心ついたときから聞かされていた我が祖国グラド帝国の偉大なる祖、
英雄グラドの活躍する伝承。彼が闇魔法の使い手だったせいだろうか。

光の英雄が世界を救うという物語は史実、創作ともにあふれている。
だが自分は正義とは反対の性質だと思っていた『闇が世界を救う』
という逆転劇に心惹かれていた。元々目立つ性格でもなかった自分が
光にはなれない存在だということに気がついていたから。

英雄、とまではいかなくてもいい。でもほんの少しでもいい、
誰かに認められる存在になりたかったのかもしれない。



知識を得ることは楽しかった。魔道の道とは知れば知るほど
己の力へと還元されていく。

古代から伝わる魔道書を開き、そこに書かれている
特殊な言語を自らの言葉で紡ぎ組み立てる。手のひらを静かにかざすと
ぼおっとした紫の光が現れ、ゆらゆらと手のひらで踊りだす。
意識を集中させ、私は『的』に向かってそれを放った。

『的』は闇色の炎に包まれボロボロと崩れ落ちていった。

元々剣や槍は不得手な、体力自体も人並みでしかない自分が
それらに対抗しうる特別な力を発揮できるということは嬉しかった。


だが、ふと気がついたときには自分の周りに人が居なくなっていた。


自然の中に存在するという精霊から力を借りる理魔法、
そして清らかな太陽の光から力を借りる光魔法。

だが闇は本来人を恐怖に陥れるもの。
闇を極めし人間には、それがたとえどんなに優れた使い手や
心優しき人格者でも、少なからず禍々しいオーラが伴う。
悪魔の使者や魔物と等しい存在、そう捉えるものも少なくない。

それに、闇魔法は心を蝕みやすい。安易に闇魔法に手を出し
闇に取り込まれ廃人と化した人間の話もよく耳にした。
世間では『悪魔に取り付かれたから呪われた。自業自得』
そういって片付けられる。


いつの間にか自分は力により認められる存在どころか
悪魔と呼ばれ、忌み嫌われる存在へと変化していた。

元々、人と接することは得意な方ではなかったし寂しくは無かったが
少し自分の存在というものが虚しく感じられた。




私の生まれたマギ・ヴァル大陸の南側に位置するグラド帝国。

この国が闇魔道士を必要としているということは
今の私にとって救いだったのかもしれない。
私は運良くその才能を認められ、宮廷魔道士への道へと進むことが出来た。

立派なヴィガルド皇帝、そしてまだ若いが心優しいリオン皇子。
大国でありながら平和を愛するこの国に生まれたこと、
そしてそこに仕えることが出来る今のこの身に、私はただ感謝したい。




帝国から与えられた魔道研究所は個人では決して知ることの出来ない
豊富な知識にあふれていた。私はそこで研究に没頭することが出来た。

ここに来て幾年かたった頃、一人の訪問者が現れた。
それはリオン皇子だった。

「リオン皇子ではないですか!一体この魔道研究所に何のようでしょうか?
 お呼びしていただければこちらから伺ったものを…」

私は慌ててかけよると、リオン皇子は真剣な眼差しで私を見つめてこう言った。

「宮廷魔道士ノール、君に頼みがある」
「何でしょう?私に出来ることでありましたら何なりとお申し付けください」
「いや別にそんなに畏まらなくていいよ。闇魔法を教えて欲しいんだ」
それは意外な頼みだった。心優しき皇子と闇がなかなか結びつかなかった。
「闇魔法を…ですか?リオン様が?」
「うん。迷惑かな」
「いえそんなことはございません。ですが皇子、何故闇魔法を使いたいと…?」
「この間、ルネスの王子エフラムとそしてエイリーク王女に出会ったんだ。
 エフラムってね、僕と同じくらいの年なのに槍の腕が凄いんだよ。
 エイリークも相手をしてくれたけど…女の子なのに全然敵わなかった。
 僕にはあまり腕力も武器を使いこなす才能もない。
 でも本を読んだり勉強したりするのは好きだ。
 だから魔法でなら何とかなるんじゃないかって」

「リオン皇子、貴方は何故力を欲するのですか?」
私は思わず強い口調でそう尋ねてしまった。
決して教えたくないのではない。
自らの知識がリオン皇子の役に立てるのならばそれは光栄だ。
だが『闇』は生半可な思いでは極められない。
変に教えて皇子が闇に飲まれるようなことでもあれば、
国を滅ぼしてしまうことにもなりかねない。


「うーん…このグラドが好きだから。じゃだめかい?」
皇子は少し考え込んだ末、そう答えた。
「この国が…ですか」
「うん。僕はこの帝国の皇子として生を受けてしまった。
 父上は僕と違い力がある。この国に万が一のことがあっても
 守りきることが出来るだろう。でも…この数十年後父上が亡くなって…
 そうしたら僕が王にならなくちゃいけない。今の僕には資格がない…
 だから僕は誰にも負けないくらいの力が欲しいんだ!」
そう言い切ったリオン様の瞳には強い意志がはっきりと浮かんでいた。

意思が強いものは必ず闇に打ち勝つことが出来る。
誰かのそんな言葉を思い出した。

「わかりました明日からこの魔道研究所にきてください」
その日からリオン皇子は研究員の一員となった。




リオン皇子の闇魔法の才能は私の予想以上だった。
与えられた書物をすぐに吸収し、簡単に使いこなす。
流石に双聖器グレイプニルを使いこなした英雄グラドの血を
引いているだけはあるかもしれない。
今や彼の闇魔法の力は古くから研究していたはずの私達と同等…
いやそれ以上のモノを持っているようにも見えた。

皇帝もリオン皇子の予想以上の才能の開花を知って喜んだのか
魔道研究所は皇帝からリオン皇子の直轄へと移された。

リオン様も『自分直属の自由に動かせることが出来る機関』の存在に
最初は「まだ僕にはふさわしくないよ」等と戸惑ってはいたが、
「えーと、闇魔道士の皆さん。僕は頼りないかもしれないけど、
 精一杯がんばりますので、これからもよろしくお願いします」
そんなたどたどしくも微笑ましい挨拶をして受け入れてくださった。

接していく度に彼の暖かい人柄に惹かれていたからだろうか。
リオン様直属という存在になったことが何故か妙に嬉しかった。



あるときリオン様が1冊の古い書物をもって
これを研究したいと言ってきた。

禁断の力『予見』

そこには夢物語のような力が書かれてあった。
時を垣間見る力。そこに介入することが出来る力。

未来を見てそれが不幸を呼ぶのならそれを可能な限り修正する。
「ねえ。これが本当に出来たら凄いことだと思わない?」
「ですがリオン様、それは神の意志に反するのではないでしょうか?
 運命を捻じ曲げるということは、決して犯してはならない禁忌です」
「…………ごめん」
リオン様は小さな声でそう謝ると、無言で部屋を退出した。

数日後、リオン様は研究室で再びその書物を取り出した。
「リオン様、やはりそれを研究したいのですか?」
「うん…やっぱり僕たちの力で大きな災害とかを防ぐことが出来るのなら…
 少しでもいい、平和の為に試してみたいんだ」

実はリオン皇子の案を聞いた後、自分の中でも心が動いていた。
人生をリセットすることは出来ない。だが…もしやり直すことが出来るのなら、
修正できるのなら、それにより救える人がいるのならば。
心の奥でくすぶっていた炎が燃え上がるものを感じていた。
何時の間にかそれが禁忌であるという迷いはなくなっていた。
「わかりました。私達も精一杯手伝わせていただきます」

こうして私達の予見の研究が始まった。





月日を重ね、私達はついに予見に成功した。

近々、グラドの南海に大きな嵐が起こるということを。
その嵐に巻き込まれ死ぬ多くの漁師や観光客。
皇子はそれを陛下に伝え、陛下は港から船を出すことを禁じた。

穏やかな南海は漁師たちの生活の糧であるし、その他のものも生活がかかっている。
皇帝の横暴だ!と反発の声もあがった。

だがまもなく嵐は起こった。

「もし俺たちが船を出していれば、きっと巻き込まれて死んでいた。
 こんな時に皇帝があんな命令を出すとは、ああ本当に運が良かった!」

人々は決して皇帝を称えはしなかったが、
神の与えてくれた『偶然』による奇跡に、ただただ感謝していた。

「リオン様!私達は成し遂げましたよ。死ぬはずの人たちを救えたのです!
 ですが…これだと私達は悪人ですね。少しだけ歯がゆく思います」
「ハハ、そうかもしれないね。
 皆『偶然』なんかじゃないことに気がついてないから。
 でも認めてもらわなくたっていいじゃないか。光になんてならなくてもいい。
 僕たちが誰も知らないところで闇魔法で世界を平和に導くんだよ。
 神様でもない僕たちが!それってなんだか凄いことだと思わないかい?」

そういって嬉しそうに笑ったリオン様のキラキラした顔が
しばらく脳裏から焼きついて離れなかった。


誰かに認められたいから力を求める。
そう考えていた私が愚かだった。たとえ世間からの評価がマイナスでも、
自分の力が誰にも認められない気づかれることのない影の存在であっても、
人々の役に立てるのだったらその努力を惜しまない。

リオン様は本当にこの世界の平和だけを考えておられる優しいお方だ。
この方に協力することが出来て私は本当に幸福な人間だと実感した。






ほんの数日後を見るという予見にも慣れてきた頃、
私達はもっと先の世界を知りたくなった。人の探究心というものは底がない。

2年後3年後、いやもっと先のグラドの繁栄。

「きっと素敵な未来がーーーー」


なかった。

私達の前に映し出されたグラドの未来、
それは大陸の南半分が大きくひび割れ崩れ落ち、
草木もなく枯れ果てた大地。全てを押し流す大波。
わずかに生き残った人も次々と餓えて苦しみ死んでいく。
今の平和で豊かな国で笑う人々のほんのわずか数年後が
そんな残酷な世界だとどうやったら想像できるだろうか。

納得のいかない私達は、寝る間も惜しんで予見を何度も何度も繰り返した。
だがやはり結果は覆らない。

災害といえどもただ嵐が起こるだけなら船を出さねばいい。
だがこのような国全体を襲う悲劇には対処する方法がない。

「俺はこんな未来がみたいんじゃない!」
そう言って宮廷を飛び出した魔道士もいた。
私達はそういう者を引き止めることはしなかった。
誰もが彼と同じ逃げ出したい心境に追いやられていたからだ。
私も、誰よりも必死に研究を続けるリオン様がいなければ
逃げ出していたかもしれない。

「このグラドに伝わる聖石『ファイアーエムブレム』
 この魔力を無限大までに引き出すことが出来れば!」

ただそれが私達に残された唯一の救いの方法だった。







このあたりから急速に運命は狂い始めた。
未来を勝手に覗き見た天罰がくだったのか。

「父上……っ!父上!!」

リオン様のお父上、ヴィガルド皇帝が病により崩御された。

「ノール…お願い。父上のことはまだ誰にも伝えないで…
 崩壊の原因が突き止められない今、グラドが最強の皇帝を失ったら…
 こんな僕のようなひ弱な男が皇帝になったら…全てが終わってしまう…
 僕はこの国を混乱させたくない」

元々陛下が病をこじらせていたのは知っていた。
どんなに強き英雄でも病には敵わない。
だが陛下よ、何故あと10年、いや5年でも待てなかったのか。

今のリオン様に『力』がないわけではない。
魔力だけなら屈指のものだ。だが実戦となると、いや実戦どころか練習でも
相手を傷つけることに怯えてしまうのか本来の力が発揮できないでいる。
彼は人の死に耐えられるほど大人ではない。割り切ることが出来ない。
まだ『心』が弱すぎる。優しさ、それは儚さを感じるほどに。

優しいだけの皇帝、というのも平和で豊かな時代のそれならば
構わないかもしれない。今のようにルネスなどの近隣国と同盟を結んでいれば
大きな戦争も起こらないだろうし、問題も最小限で食い止められる。
だがグラドにこれから起こる悲劇は、
確実に近隣諸国と問題を起こすことであろう。


「父上…お教えください!
 僕はどうすればいいのですか…?」
「リオン…わしが死ねば…お前はグラド皇帝なのだ…
 皇帝には…国を守る義務がある。わしにはもう…
 何もしてやれぬ。お前が…民たちを守らねば…」
「そうだルネス王国に…エイリークやエフラムに頼めばきっと…!」
「天災から助けてくれと訴えるか…おそらくルネスは受け入れてはくれまい。
 グラドが飢えた難民であふれ返ればルネスは国境を閉ざす…
 それが当然のことだ。ルネスにはルネスを守る義務がある」
「そんな…」

陛下は死ぬ間際に皇子とそう言っていた。

確かに陛下の言うことはもっともだ。ほんの数人、数十人が
助けを求めるのなら同盟国は助けてくれるだろう。
だが今回はあまりに規模が違いすぎる。何十万、何百万もの国民が
他国に移住することは事実上不可能であるし、
たとえ豊かとはいえルネス側にも食料、資源等は限られている。
国境を開放するということは逆にルネス自身を滅ぼすことにも繋がってしまう。

ではどうすればいいのか。
それを考える役目が、そして考えた末に実行に移す役目が
リオン皇子に回ってきてしまったのだ。
皇帝に支えてもらい、影で甘えることが不可能となったのだ。


それから数ヶ月、リオン様は研究室に閉じこもった。
古の書物を読み漁る毎日。誰が話し掛けても答えない。
「どうすれば国民を…僕が…僕が弱いから…皆死ぬ…父上…」
時折聴こえてくる痛々しい皇子の呟き、
そしてそんな皇子に何も出来ない無力な自分が歯がゆかった。






ある日のこと、城内から強大な闇魔力の力が解放されるのを感じた。
今まで闇に触れつづけてはいたがこんなに強大な力を、
恐怖を感じたことはない。

私はその力の元へと必死に駆けつけた。
するとそこには何故かリオン皇子の姿が存在した。

「リオン様!一体どうなされたのですか!リオン様…リ…」
何故だろうか。思わず言葉に詰まってしまった。
このお方はリオン様のはずだ。見間違えるはずはない。
それなのに何か言葉にあらわすことの出来ない違和感を感じた。

「やあノール。きみに良い知らせがあるんだ。
 父上がね、生き返ったよ」
「へ、陛下が…?」
それは信じられない一言だった。

リオン皇子に案内されるがままに私達は玉座に向かった。

「陛下…」

そこには確かに、在りし日のヴィガルド皇帝の姿が存在した。
玉座に無言で座っていた皇帝は生気の感じられない暗い表情で
瞳を閉じていたせいかまるで人形、いや死体のように感じられた。


「さあ 父上…目を開けるんだ」
リオン皇子の声により陛下は瞳を開いた。
「へ、陛下…!ああ、信じられない。
 まさかもう一度お姿を見ることが出来るとは!
 リオン様、いったいどのような奇跡を…」
そのとき、ふとリオン皇子の手に闇色に輝く不気味な石を発見した。
「リオン様…その石は…?」
「ああ、これ『魔石』。君が知っている『聖石』以上の力を持つものだ。
 ファイアーエムブレムから僕が純粋な魔だけを取り出したんだ。
 父上をよみがえらせたのもこの『魔石』の力なんだよ。凄いでしょ」

よく見るとそこには魔石だけではなく、今まで見慣れたはずの
聖石ファイアーエムブレムも転がっていた。だが聖と魔を分離されたからか
輝きは今までのものよりも弱く感じられた。

「そうですか…『魔石』…」
私はその言葉に少し震え上がるものを感じた。
魔の力、それに触れつづけていたはずなのに。何故今更魔を恐れるのか。

「僕の手にはこの『魔石』がある。
 だからもう、こっちの抜け殻はいらない」

リオン皇子は聖石に向かって魔力を放つとそれを完全に砕いた。
あまりに一瞬な出来事に、パラパラと崩れ落ちる聖石を見て
ただ呆然とすることしか出来なかった。グラドを守ってきたはずの聖石、
それが何故破壊されないといけないのか。

「リ、リオン様!?『聖石』を何故…?
 それは大切なものではないのですか!」
「邪魔なんだ。『聖石』はね。この大陸にある他の四つ…
 ルネス、フレリア、ジャハナ、ロストンの聖石。
 それも全部壊す。あるのは僕の手にあるこの『魔石』だけでいい」

そう嬉しそうにいったリオン皇子の笑顔は、
私が今まで好きだった皇子の笑顔とはまるで正反対の邪悪な笑みだった。




それからのリオン様は明らかにおかしかった。
元々リオン様は陛下が健在だった頃も、
決して政治の表側にでようとはしなかった。

だが今は陛下が皇子のいいなりになって
国を動かしているようにしか見られない。
そしてついには同盟国ルネスを攻めるとまで言い出してしまった。

「リオン様考え直してください!何故ルネスを攻めるというのですか!
 あそこは同盟国です。貴方はエフラム王子、エイリーク王女とも
 仲の良い親友だったはずではないのですか?!」

「ノール、君だって知っているだろう?
 この大陸の南側…グラドの大地は数年後には崩壊する。
 僕たちグラドの人間が生きていくにはね、新しい土地が必要なんだよ。
 豊かな北の大地が。親友なら何でもしてくれると思ったら大間違いだ。
 だから僕は無理やりにでもルネスの豊かな国をいただくんだ。 
 それとも君はあの『予見』がまだ信じれらないのかい?
 いや……君は救うことが出来るはずのグラドの国民を見捨てれるんだ。
 彼らが餓えて死んでもいいというんだ。酷い奴だな」

リオン様は私をニヤニヤと見つめた。やはり違う。
心優しいリオン様と同じ顔で笑う『こいつ』に憎しみすら感じられた。

「貴方は……本当に『リオン様』なのですか?」

「おや、何を言ってるんだいノール?」

「私の知っているリオン様は全ての人間を愛する心優しき人でした。
 いや人間だけではない。動物も草木も海も大地も全てのものを愛していた。
 間違っても他国の人間を傷つけるようなことなど出来ない。
 それがグラドのためであろうと!貴方は誰なのですか!皇子を返してください!」

「ハハハッハハ!じゃあ僕は君はこの誰だっていうんだい?」
「悪魔…いえ、魔王です…!」
「こいつは面白いや。じゃあ魔王でいいよ。魔王リオン」
「リオン様の名を語るのも辞めてください!」

私は精神を集中させ得意な呪文を唱えるとそれを
『リオン様の形をしたモノ』へと解き放った。

しかしその闇色の炎は目の前で打ち消されてしまった。

「この程度の闇で僕を傷つけられるとでも思ったの?馬鹿だなあ。
 闇っていうのはね。こういうのを言うんだよ」
魔王から強大な魔力が解放されていく。
先ほどの私の炎の何倍も大きく、そして暗い闇が私へ向けて解き放たれた。

「……かはっ…」
闇の直撃を喰らった私は地面に叩き付けられた。

「今のは死なないように威力を弱めたけど。これ以上僕に逆らったら殺すよ」

「………構い…ません。それで…リオン様が…帰ってくるというのでしたら…
 喜んで…こんな命捧げましょう…だからリオン様を…解放して…ください…」

「フン、抵抗してくれなきゃつまらないな。
 なんか君、ほっといても死にそうだし。
 どうせならもっともっと絶望してくれなきゃ。しばらく牢にでも入ってろ」






「………くっ…………めんね」

何故だろう。兵士に連れて行かれる途中、
懐かしい『リオン様』の声を聞いた気がする。

「…ノール、……ごめんね」

まただ。

リオン様はもう消えてしまいこの世に居ない。
そう信じたほうが楽だったのに…
何故そう自分に期待を持たせようとするのか。

光の司祭達と違い私は神など信じないが、
もし存在するのならばそれは残酷な生き物だと思う。







この地下牢に幽閉されてどれくらいの日がたっただろうか。
リオン様に行動に反発したマクレガー司祭は、
リオン様の手で直接惨たらしく処刑されたという。
私の処刑も明日に決定した。この数日間、待ち望んでいた日だ…

もはやこんな世に何の未練もない。
あるとすれば、あの最後に聴こえた幻聴のせいで…
「もしかしたらリオン様の心がまだ残っているかもしれない」
という愚かな期待くらいだろうか。

ガヤガヤと地下牢が騒がしくなった。
もしや処刑が早まったのだろうか。まあ1日くらいどうでもいい。


「…フラム様、…牢屋から……しました!」


よく聞き取ることは出来なかったがそんな声が聞こえ、
暗くて重い地下牢へと続く扉が開かれた。

久々の地上の明かりだからだろうか。

その扉から漏れる光は、これから処刑台にあがるはずの私にとって
何故か本来よりも暖かく優しいものに感じられた。




グラド帝国にほんの少しだけでもいい、

幸、あらんことを。





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